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講義資料 名城大学理工学部応用化学科 永田研究室 | 講義資料:有機化学II

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Academic year: 2018

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(1)

8回

芳香族化合物

反応

(1)

今回と次回とで、芳香族化合物の重要な反応である芳 香 族 求 電 子 置 換 反 応 aromatic electrophilic substitutionについて学ぶ。この名称から想像できるように、芳香族化合物 のπ電子に対して、求電子剤が攻撃する反応である。π電子と求電子剤の反応としては、 すでにアルケンに対する求電子付加反応について学んだ(有機化学1、第6∼8回)。 今回は、付加反応ではなく置換反応である。なぜそのような違いが現れるのだろうか。 また、具体的な反応としてはどのような例があるのだろうか。

1.

ベンゼン

うに反応する

代表的な芳香族化合物として、ベンゼンの反応を取り上げよう。

そもそも、ベンゼンの「異常な安定性」に注目が集まった一つの要因が、この化合物 が臭素と反応しないことだった。

以前に学んだ通り、通常の二重結合を持つ化合物は、臭素と室温付近で容易に反応し て、付加生成物を与える。これがアルケンに対する求電子付加反応である。

このことから、芳香族化合物は普通のアルケンとは反応パターンが全く違うことがわ かる。

では、芳香族化合物の場合は、どんな反応が起きるのだろうか。ベンゼンと臭素を反 応させるために、いろいろな条件を試してみたところ、FeBr3を加えると反応が進行す

(2)

“cat.” は「触媒」 (catalysis) という意味です。

なぜこのような反応が起きるのだろうか。次のように、順序立てて考えてみることに する。

・ この反応はどのように始まるのか? ・ どのような中間体を経由するのか?

・ 中間体からどのように生成物へと移行するのか?

2.

ベンゼン

求電子攻撃を受ける

ベンゼンは6個のπ電子を持っている。これらは、前回見たように大きく安定化を受 けているとはいえ、やはりπ電子であることには変わりはない。従って、アルケンのπ 電子と同じように、求電子剤が近づいて来るとそれに引きつけられる。

アルケンの臭素化の機構を思い出すと、Br2が求電子剤として働く時は、π電子との

反発でBr–Br結合のσ電子が押しやられて、一方のBrが正に分極するのだった(第8

回講義資料6ページ)。

ベンゼンと臭素の反応でも同様なのだが、ベンゼンの場合、後に述べるように中間体 が芳香族性を失うため、活性化エネルギーが高く、反応がしづらい。このため、Br2の

引き合う

Br

2

trans-2-ブテン Br–Br

 σ電子が偏る (アルケンの π電子との反発)

δ+ δ

(3)

分極を助ける目的で、反対側から Br–Br 結合のσ電子を引っ張ってやる必要がある。 触媒として加えた FeBr3が、この役割を果たす。

FeBr3は、Fe原子上に空軌道を持っており、これがBrのローンペアの一つから電子

を受け入れる。このように、空軌道を持ち、それを使って他の物質から電子を受け入れ ることができる物質を イス酸 Lewis acid と呼ぶ。ルイス酸は、さまざまな有機化学 反応において、反応性を変化させる重要な役割を果たしている。本講義でも、このあと 何度かルイス酸が関与する反応に出会うことになる。

上の反応を巻き矢印を使って書くと、次のようになる。

巻き矢印から、どのような生成物が得られるかを推測してみよう。FeBr3 とBrの間

に新しい結合ができて、安定なアニオン FeBr4–を生成する。Br–Br 結合のσ電子は、

FeBr3と結合する方の Br 原子に偏り、ローンペアになる。そして、もう一つのBr 原

子に向かってベンゼン環のπ電子がふくらんで行き、C–Br結合を作る。

最終的には、図の一番右に示したカルボカチオンが生成する。これがこの反応の中間 体である。

FeBr3

Br2

Feの空軌道 Brのローンペア

δ+ δ

σ電子が偏る ローンペアが

流れ込む

Br

Br

Fe

Br

Br

Br

Br

FeBr

3

Br–Br

!

Br

Br

Br

Fe

Br

Br

Br

H

Fe–Br

Br

(4)

2.

中間体

ベンゼンの臭素化は、下のような中間体を通ることがわかった。この中間体について、 もう少し詳しく見てみよう。

まず、カルボカチオンが二重結合の隣にあるため、非局在化による安定化が起きる。 巻き矢印で示すと、下のようになる。

三箇所に正電荷が分散している。正電荷を持つ炭素は1つおきに並ぶことに注意して おこう。この性質は、あとで「配向性」(置換基が環のどの位置に入るか)を考えると きに重要になる(次回に学ぶ)。

一方、出発物質であるベンゼンが持っていた芳香族性は、この中間体では失われてい る。前回に学んだ「芳香族化合物は、なるべく芳香族性を保つように反応する」という 原則から考えると、この中間体は好ましい状態ではない。従って、次の段階では、でき るだけ芳香族性を回復するように反応が進行しようとするだろう。

3.

中間体

経路:求核剤

付加

、プロ

脱離

中間体からどのような生成物ができるのだろうか。この時点で反応系中に存在してい るのは、触媒を除けば Br–である。そこで、中間体と Br–の反応を考えよう。

反応経路は二通り考えられる。一つは、Br–がカチオンに付加する反応、もう一つは、

Br– がカチオンからH+を引き抜く反応である。

Br

H

Br

H

Br

H

Br

H

Br

H

+ Br

(5)

どちらが優先するかはもうおわかりだろう。Br–が付加した生成物は、芳香族性を持

たないのに対して、H+が引き抜かれた生成物は、ベンゼン環が再生しており、芳香族

性を持つ。芳香族性を持つ生成物の方が圧倒的に安定なので、反応はほぼ完全にこの経 路で進む。

ポテンシャルエネルギー曲線で図示すると、次のようになる。

出発物と生成物を比べると、水素原子が臭素原子に置換した構造になっている。この ため、この反応は置換反応に分類される。

Br

H

+ Br

Br

H H

Br

Br

H

+ Br

Br

+

H Br

Br

H H

Br

Br

Br Br +

Br H

+ Br–

Br

H H Br

Br

(6)

芳香族に特有の反応であり、かつ求電子剤の攻撃によって反応が開始されるため、こ の反応を「芳香族求電子置換反応」 (aromatic electrophilic substitution) と呼ぶ。 ­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­ 問1:有機化学でよく使われるルイス酸として、FeBr3 の他にどのようなものがあるか。

­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­

4.

芳香族求電子置換反応

一般形

芳香族求電子置換反応は、芳香族化合物の最も重要で一般的な反応の一つである。非 常に多くの反応がこの形に分類される。一般形として反応式を書いておこう。E+は求電

子剤 (electrophile) を表す。

反応は3つの段階から成る。

① 芳香環のπ電子が求電子剤に向かって移動する。

② C–E結合が生成し、カルボカチオン中間体が得られる。この中間体は、芳香族性 を失っているが、共鳴による安定化を受けている。

③ カルボカチオン中間体からH+が脱離して、置換生成物が得られる。生成物は、芳

香族性を取り戻す。

以下の芳香族求電子置換反応は、最もよく利用されるものである。これらは必ず記憶 しておこう。

名称 求電子剤 生成物

ニ ロ化

Friedel–Crafts

ア キ 化

Br

2

FeBr

3

(cat.)

Br

+ E+

H E

H E

H E

E

+ H+

N O

O N

O

O

(7)

Friedel–Crafts

アシ 化

ハロゲン化

ス ン化

5.

ロ化

ベンゼンを濃硫酸・濃硝酸の混合物で処理するとニトロベンゼン nitrobenzene が生 成する。この反応をニ ロ化nitration と呼ぶ。反応機構を考えてみよう。

求電子剤は何だろうか。環に導入されるのはニトロ基 –NO2なので、 “NO2+” が求電

子剤と予想される。これをニ ロニウムイ ンnitronium ion といい、二酸化炭素 CO2 の 炭素原子を窒素原子で置き換えた構造をしている。(電子配置も同じ。従って構造も同 じで、NO2+は直線型の分子である。)

濃硫酸と濃硝酸の混合物中でどうしてニトロニウムイオンが生成するのだろうか。こ の溶液は強い酸性なので、すべてのローンペアがプロトン化され得る。特に、下のよう に硝酸のOH基上にプロトン化が起きると、水が脱離して、ニトロニウムイオンが生成 する。

ニトロニウムイオンによる求電子置換反応の機構は、先に述べた一般式を当てはめて、 下のように書くことができる。

R C O R

C

O X

+ C

O

R

X+ X2 + X

S HO

O

O

S O

O OH

HNO

3

H

2

SO

4

NO

2

N

O

O

O

C

O

HO

N

O

O

+ H

+

O

N

O

O

H

H

O

H

H

N

O

(8)

最初は直線状だった O–N–O が、N–C結合が生成するにつれて折れ曲がって行くこ とに注意する。また、巻き矢印を正しく書くと、ニトロベンゼンのケクレ式も上のよう に自動的に正しく書けることになる。

7. Friedel–Crafts

化反応

フ ク フツア キ 化 Friedel–Crafts alkylationは、カルボカチオンが求 電子種として働く芳香族求電子置換反応である。生成物は、アルキルベンゼンである。

Friedel–Crafts アルキル化で用いるカルボカチオンは、上の式のように、ハロゲン化

アルキルに触媒としてルイス酸を加えることで発生させることが多い。反応機構は、下 のように書くことができる。

Friedel–Craftsアルキル化は、アルコールと酸触媒、あるいはアルケンと酸触媒を作

用させることでも可能である。 H

N

N

+ H+

+ N O O O O H N O O H N O O O O C Cl CH3 H CH3

+

C

H3C

H

H3C Al Cl Cl Cl Al Cl Cl Cl Cl + C CH3 H CH3 C

H3C

H

H3C +

H

C CH3

CH3

(9)

注1:SN1/SN2 反応を学んだときは、「一級・二級のカルボカチオンは生成しない」と考えた。 一方、上の反応や、アルケンへの求電子付加では、一級・二級のカルボカチオンを経由する場合 もあるように見える。一見矛盾しているが、求核置換と求電子付加では反応条件が異なり、求電 子付加の方がずっと強い酸を使っているため、カルボカチオンが生成しやすくなっている。

­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­ 問2:t-ブチルベンゼンをFriedel–Craftsアルキル化で合成するには、どのような原料

を使えばよいか。

­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­

7. Friedel–Crafts

アシ

化反応

フ ク フツ アシ 化 Friedel–Crafts acylation は、アシ チ ン acyl cationが求電子種として働く芳香族求電子置換反応である。生成物は、芳香族カルボニ ル化合物(通常はケトン)である。

アシルカチオンとは、末端にカルボニル基C=Oを持つカルボカチオンのことである。

アシルカチオンは、ハロゲン化アシル(普通は塩化アシル)にルイス酸を作用させて 発生させる。極めて反応性の高い求電子種なので、単離することはできない。

C

OH

H

3

C

H

CH

3

+

H

+

C

CH

3

H

CH

3

+ H

2

O

C

H

3

C

H

CH

2

+

H

+

C

CH

3

H

CH

3

+

R

C

O

Cl

AlCl

3

C

R

O

+

H–Cl

(10)

アシルカチオンとベンゼンとの反応は、下のように進行する。

アシルカチオンは、カルボン酸無水物とルイス酸からも生成できる。

­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­ 問3:ハロゲン化アシル・カルボン酸無水物のどちらも、カルボニル酸素上にもローン ペアを持っている。上の反応で、カルボニル酸素上ではなくハロゲンまたは–O–上のロ ーンペアのみがルイス酸と結合すると考えているのはなぜか。

­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­­

8.

ハロゲン化

臭素との反応はすでに学んだ。塩素、ヨウ素を使った反応も同様に進行するが、反応 性がハロゲンの種類によって大きく異なるため、反応条件を慎重に検討する必要がある。

注2:上の反応条件を記憶する必要はない。具体的な条件は、実際に合成を行う時に調べればよ

R

C

O

X

X

Cl

R C O

+

Al

Cl

Cl

Cl

Al

Cl

Cl

Cl

Cl

+

R C O

+

H

C

R

O

– H

+

C

R

O

R

C

O

O

C

O

R

+

Al

Cl

Cl

Cl

R C O

O

Al

Cl

Cl

Cl

+

C

O

R

+

Cl

2

FeCl

3

Cl

+ HCl

+

I

2

HNO

3

I

(11)

い。なお、ヨウ素と硝酸を使ったヨウ素化では、HIが硝酸で酸化されてI2になるため、I2の当 量は半分でよい(参考:Dains and Brewster, Org. Synth. 1929, 9, 46)。

9.

ン化

ベンゼンを発煙硫酸(濃硫酸と SO3 の混合物)で処理すると、ベンゼンス ン酸 が得られる。

求電子剤は、SO3がプロトン化されたHOSO2+である。反応経路は、ニトロ化の場合

とよく似ている。

ある種の芳香族求電子置換反応は、可逆反応である。スルホン化はその顕著な例であ る。ベンゼンスルホン酸を強い酸性条件で処理すると、スルホン酸基が H で置換され た生成物が得られる。

9.

・ ベンゼンは求電子剤と反応し、芳香族求電子置換反応を起こす。

・ 求電子置換反応では、求電子剤 付加した チ ンが反応中間体である。 このカルボカチオンは芳香族性を失っているが、共鳴によるカチオンの非局在化に よって安定化されている。

H

2

SO

4

SO

3

SO

3

H

HO

S

O

OH

O

+ H

+

HO

S

O

O

O

H

H

HO

S

O

O

+ H

2

O

S

H

HO

S

O

O

O

O

HO

S

O

O

OH

– H

+

S

O

O

OH

+ H

+

S

H

O

O

HO

HO

S

O

(12)

・ 反応中間体からH+が脱離して、置換生成物が得られる。このとき、

芳香族性 回 復する。

・ ニ ロ化は、ニトロニウムイオン NO2+ による芳香族求電子置換反応である。生 成物は、芳香族ニトロ化合物である。

・ Friedel–Crafts ア キ 化は、カルボカチオンによる芳香族求電子置換反応である。 生成物は、アルキルベンゼン誘導体である。カルボカチオンは、ハロゲン化アルキ ルとルイス酸から生成するか、またはアルコールやアルケンと酸から生成する。 ・ Friedel–Crafts アシ 化は、アシルカチオン R–C+=Oによる芳香族求電子置換反

応である。生成物は、芳香族カルボニル化合物(通常はケトン)である。アシルカ チオンは、ハロゲン化アシルまたはカルボン酸無水物とルイス酸から生成する。 ・ ハロゲン化は、ハロゲン単体とルイス酸を使って X+を求電子剤とする芳香族求電

子置換反応である。生成物は、芳香族ハロゲン化物である。

参照

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